シューターのブログ

 

真理と力

 

 今年もわずかとなりました。早速ですが、2021年の読み納めはこの一冊、ハクスリー(1932)の『すばらしい新世界』。ディストピアの傑作と言われているそうです。90年近くも前に、科学の進歩が人間に与える影響の一つの可能性を示しており、驚くばかりです。

 

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生命のコントロール

 この物語で描かれている世界は、現代人の感覚からすればとても歪な世界となっています。人間は受精卵が孵化する前のところから人工的にコントロールされており、社会は生命を完全にコントロールすることにより、α階級からε階級までのヒエラルキーを作り出しています。そして、条件付けという刷り込み教育により、そのような階級社会を当たり前と思うばかりか、どの階級に所属する者も「自分の境遇が最も幸せである」と疑う余地がないよう仕向けられます。そうすることにより、社会の秩序が保たれるよう統治されているのです。

 ITとバイオテクノロジーが世界を変える未来、そう遠くはなかったりして...

 

幸福と不幸

 「すばらしい新世界」には苦痛というものが存在しません。辛いことがあったとしてもすぐさま「ソーマ」という薬を取り出し、半錠ほど飲めば快楽の旅へとしばし出ることができます。いわゆる現実逃避です。でも辛い感情と向き合うことはないから、不幸せではないのです。しかし、これこの世界に異議を唱えるものがおり、幸福は真実に立ち向かい、不幸があるこそだといった趣旨の主張をします。光があれば陰があるといったようなものが真理なのでしょうか。幸福とは何なのでしょうか。そんな問いを突きつけられているような気がしました。

 

真理と力

 「すばらしい新世界」では、多くのものが統制されています。例えば科学。科学は真理を追求するものでありますが、使い方を間違えると多大な被害を及ぼします。それは、私の出身地、ヒロシマの歴史のページを少し、過去にめくる分かることです。真理を追うと進歩もありますが、一歩間違えると破滅につながるということです。だから「真理」を追究する科学を慎重に扱い、大胆に統制しているというのが「すばらしい新世界」です。人々に真理を追わせない、真実を決して知られないようにする。そんな大きな力が働いています。

 これは現代も同じであるなと感じます。このコロナ禍もそう。それ以前もずっとそう。真理を口にしない、沈黙が力を持っています。真実には力があるけれど、それ以上に沈黙に力があるります。

 真理が気になる性の自分としては、納得いかないけれど、そういうもんなんですかね。

 2021年もお疲れ様でしたw

 

最後まで読んでいただきありがとうございます